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東京地方裁判所 昭和58年(特わ)1995号 判決

本店所在地

東京都品川区東五反田一丁目一九番一三号

東洋観光株式会社

(右代表者代表取締役 小林成桂)

本籍

東京都新宿区西新宿六丁目七三〇番地

住居

同都品川区東五反田五丁目七番一〇号

会社役員

小林成桂

昭和二四年八月二四日生

本籍

東京都新宿区西新宿六丁目七三〇番地

住居

同都品川区東五反田一丁目四番九号

五反田スカイハイツ三〇五号

会社役員

小林敏雄

昭和二二年五月一二日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官三谷紘出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

一  被告人東洋観光株式会社を罰金六五〇〇万円に、被告人小林成桂を懲役二年に、被告人小林敏雄を判示第一の罪につき懲役一年二月に、判示第二の罪につき懲役四月にそれぞれ処する。

二  被告人小林成桂に対し、この裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人東洋観光株式会社(以下、「被告会社」という。)は、東京都品川区東五反田一丁目一九番一三号に本店を置き、キャバレーの経営等を目的とする資本金一〇〇万円の株式会社であり、被告人小林成桂(以下、「被告人成桂」という。)は、同会社の代表取締役(昭和五五年四月三日までは、同会社の取締役)、被告人小林敏雄(以下、「被告人敏雄」という。)は、同会社の実質経営者(昭和五五年四月三日までは同会社の代表取締役)として共に同会社の業務全般を統括しているのであるが、被告人成桂及び同敏雄の両名(以下、「被告人両名」という。)は、共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を正規の帳簿に記載せず、これを架空名義の普通預金口座に預け入れて隠匿する等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五四年六月一日から同五五年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億九二〇四万二八九六円(別紙(一)修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が一億九五九七万六八〇〇円(別紙(三)の1税額計算書参照)であったのにかかわらず、右法人税の納期限である同五五年七月三一日までに、東京都港区高輪三丁目一三番二二号所在の所轄品川税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額一億九五九七万六八〇〇円を免れ、

第二  昭和五五年六月一日から同五六年五月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二一七四万七三二三円(別紙(二)修正損益計算書参照)であり、これに対する法人税額が五〇一七万三七〇〇円(別紙(三)の2税額計算書参照)であったのにかかわらず、右法人税の納期限である同五六年七月三一日までに、前記品川税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もって不正の行為により同会社の右事業年度の法人税額五〇一七万三七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人両名の当公判廷における各供述並びに第一、二回公判調書中の各供述記載部分

一  被告人小林成桂(七通)、同小林敏雄(九通)の検察官に対する各供述調書

一  崔泰一(二通)、井上美春(三通)、石原雄基、平岡美津子、田堀秀子、小島多津子、山口こと李晃弘(二通)、朝賀伸一、住浦三企夫こと住浦勝治、渡邊雄二、市川慶信の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の登記簿謄本三通

一  収税官吏作成の仮名普通預金調査書

一  東京商銀信用組合五反田支店常務理事支店長作成の証明書

判示第一、第二の各事実、ことに別紙(一)(二)修正損益計算書各勘定科目の内容につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  純売上調査書

2  純売上と損金に両建計上すべき金額調査書

3  商品棚卸高調査書

4  当期仕入高調査書

5  簿外当期仕入額(宝屋商事(株)、(資)入山商店、(株)鷹松屋)調査書

6  給料調査書

7  給料支給額と仮名普通預金出金額との照合検討調査書

8  福利厚生費調査書

9  旅費交通費調査書

10  消耗品費調査書

11  広告宣伝費調査書

12  交際接待費調査書

13  事務費調査書

14  公租公課調査書

15  修繕費調査書

16  新聞図書費調査書

17  地代家賃、賃借料調査書

18  賃借料(おしぼり)調査書

19  通信費調査書

20  燃料費調査書

21  組合費調査書

22  保険料調査書

23  支払手数料調査書

24  水道光熱費調査書

25  雑費調査書

26  印刷費調査書

27  材料費調査書

28  顧問料調査書

29  管理費調査書

30  企画費調査書

31  ホステスミーティング費調査書

32  従業員食事会費調査書

33  幹部活動費調査書

34  朝撤き費調査書

35  スカウト費調査書

36  社長交際費調査書

37  受取利息調査書

38  雑収入調査書

39  交際費損金不算入額調査書

40  損金算入附帯税調査書

一  検察官作成の「純売上について」と題する捜査報告書

判示第一の事実、ことに別紙(一)修正損益計算書各勘定科目の内容につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  減価償却費調査書

2  見舞金調査書

3  造作等除却損調査費

判示第二の事実、ことに別紙(二)修正損益計算書各勘定科目の内容につき

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  受取配当金調査書

2  車両売却損調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書

(確定裁判)

被告人敏雄は、昭和五五年六月四日東京地方裁判所において風俗営業等取締法違反の罪により懲役四月(二年間執行猶予)に処せられ右裁判は同年一二月四日確定(同年一一月一九日控訴棄却)したものであって、この事実は検察事務官作成の昭和五八年六月九日付前科調書及び判決書謄本によって認められる。

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

判示第一の所為につき、昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項、判示第二の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一、二項、一六四条一項

(二)  被告人両名

判示第一の所為につき、行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、刑法六〇条、裁判時において右改正後の法人税法一五九条一項、刑法六〇条(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)判示第二の所為につき、右改正後の法人税法一五九条一項、刑法六〇条

二  刑種の選択

被告人両名につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人成桂

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い判示第二の罪の刑に加重)

(三)  被告人敏雄

判示第一の罪につき、刑法四五条後段、五〇条

四  刑の執行猶予

被告人成桂につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

被告人両名は兄弟であって、被告人敏雄は昭和四四年日本大学農獣医学部を中退し、暫く金融業等に従事した後、同四七年六月二〇日実父大山武夫こと崔泰一から資金援助を受け、キャバレー等の経営を目的とする被告会社を設立して代表取締役に就任し、同年七月五反田駅東口所在の実父所有の東洋会館ビル二階にキャバレー「東口ニユーブルームーン」を開店(同五〇年ころ同ビル一階にも拡張)、その後同四八年には同ビル地下にキャバレー「ミス五反田」(同五三年に「東口オーケー」と改称)、同五〇年九月に同駅西口所在の実父所有大山ビル一、二階にキャバレー「西口ブルースカイ」、同五二年同ビル地下にキャバレー「ハイハイ」(同五四年に「西口ブルームーン」と改称)、同五三年四月大井町駅前のビル四階を借りて「キャバレーブルースカイ」(同五五年五月他に営業譲渡)と店舗を次々と増設し、その経営に当ってきたもの、被告人成桂は昭和四七年三月日本大学農獣医学部を卒業し暫く旅行代理店で働いた後、被告会社設立とともにその取締役となり、同年九月ころには被告会社の営業に従事するようになったが、間もなく同四八年二月自らも実父崔泰一の資金援助を得て同じくキャバレー等の経営を目的とする泰洋観光株式会社を設立して代表取締役に就任し、同会社により同五〇年一〇月キャバレー「横浜ニユーブルームーン」を開店し、更に同五一年一〇月被告人成桂個人でキャバレー「川崎ブルースカイ」を開店しこれらの経営に乗り出したが、営業成績は必ずしも順調でなかったこともあって、同五四年一二月右「川崎ブルースカイ」を閉店し、更に同五五年一月には右「横浜ニユーブルームーン」の経営を他に委せることとし、結局そのころから被告会社の取締役副社長として被告人敏雄とともに被告会社の経営に本格的に携わるようになり、更に同年二月被告人敏雄が風俗営業等取締法違反の罪により逮捕・勾留され、対外的に同被告人の名前を出すことに支障を生ずるおそれがあったことから、被告人成桂が同年四月被告会社の代表取締役社長に就任することとなったものであるが、右以後も被告人敏雄は依然社長と呼ばせ、被告会社の経営に実質的に関与してきたものであり、本件犯行当時の被告会社の経営は被告人両名によって行われていたものである。

本件は、被告人両名が被告会社の設立や店舗の改修をする際に実父の崔泰一から借受けた資金を返済し、かつ被告人両名の資産を蓄積する目的で料理飲食等消費税や法人税の脱税を企図し、公表帳簿上売上や経費の大幅な除外を行って簿外仮名預金等にして所得を秘匿したうえ、被告会社の所得について納税の申告をせず、判示のとおり昭和五五年五月期及び同五六年五月期の両事業年度で合計二億四六一五万円余にのぼる巨額の法人税を免れたという大型脱税事犯である。そこで本件脱税の態様を更に詳しくみると、被告会社においては、昭和五一年ころから、税務当局の調査を受けたとき脱税の事実を摘発されないよう、被告人敏雄の指示を受けた経理担当者が各店舗ごとに日報に表れた実際の売上額から約二分の一ないし三分の二を除外した伝票等を作り直したうえこれをもとに公表帳簿を作成し、実際の収入のうち、右帳簿に記入した公表分については東京商銀信用組合五反田支店の被告会社名義の当座預金に入金し、除外分は同支店に開設した仮名普通預金口座に入金したほか、簿外現金として保管しておき、また被告会社の従業員の給料、仕入代金、営業活動費等の経費についても、右公表の売上除外金額に見合う程度にその一部を公表帳簿に記入し、公表の支払分は前記公表の当座預金から支払い、簿外の支払分については預金にする前の段階で売上金から抜いた簿外現金や前記仮名普通預金等から現金で引き出し支払っていたものである。被告人らは、税務当局の調査に備えて実際の売上を記載した日報、伝票等一切を焼却、廃棄していたばかりでなく、前記被告会社の仮名普通預金に入金した売上の除外分については仮名普通預金口座名義を度々変更し、数回に分けて現金で引き出してはこれを新たに設定した仮名普通預金口座に移し替え、古い仮名口座については解約するという操作を繰り返し、これらの普通預金通帳も東京商銀信用組合五反田支店の被告会社担当者に預けるなどして、右の仮名預金口座の預金の流れが税務当局に把握され、脱税の端緒が発覚することのないよう細心の注意を払っていたものであり、右のような被告会社の本件脱税の犯行の態様は極めて巧妙かつ徹底したものであったと認められる。しかも被告人敏雄は、昭和五六年一月二四日に至って所轄税務署から同五五年五月期までの事業年度の法人税について申告するように督促を受け、同五三年五月期及び同五四年五月期を含む三事業年度について期限後申告をしているが(押収してある法人税確定申告書―昭和五八年押第一四一四号の1)、右申告書に記載された昭和五五年五月期の被告会社の所得額は六五万円余にすぎず、実際の所得額を全く無視した申告をしているものである。

以上のほか、被告会社においては、昭和五二年ころからキャバレーのホステスに命じて卑猥な行為をさせる等正当な営業形態によらない風俗営業等取締法に触れるいわゆるピンクサービスを行わせ、これがために再三警察の摘発を受けながら、このような違法な営業方法を反覆するなどして巨額の利益を挙げ、なおかつ右のような不正な所得隠匿手段を弄し本件脱税に及んでいるものであることをも併せ考えると、被告人らの本件犯行は悪質極まりないものといわざるを得ない。

ところで、以上の脱税工作はすべて、被告人敏雄が被告会社の代表取締役の地位にあった昭和五一年ころ、同被告人が中心となって計画し、これを推進してきたものであり、しかも同被告人は前記のとおりピンクサービスによる風俗営業等取締法違反により昭和五五年六月四日東京地方裁判所において懲役四月(二年間執行猶予)に処せられながら(同年一二月四日確定)、右被告事件の審理期間中及び右判決確定後の執行猶予期間中に本件各犯行を敢行しているのであって、このような被告人敏雄の態度は遵法精神及び納税意識を著しく欠いたものというほかなく、厳しい非難に値するものといわなければならない。他方、被告人成桂についてみると、同被告人が被告会社の脱税工作に本格的に関与するようになったのは、同被告人が被告会社の副社長としてその経営に関与するようになり、すでに被告人敏雄によって確立した前記脱税工作を含む被告会社の営業方法をそのまま踏襲するようになって以降のことであると認められるのであって、本件犯行における被告人成桂の責任の程度は被告人敏雄のそれと対比するならば、やや軽いものがあると認められる。

なお、被告会社の幹部会に実父崔泰一が出席し、被告人両名が被告会社の業務について相談したことがあること、実父が被告会社に多額の資金を無利息で貸付け、被告会社の簿外預金から引出された現金は実父の許に届けられ、これが実父からの右借入金の返済にあてられていたことからすれば、実父が被告会社の経営等に関与していた疑いが存することは否定できないけれども、実父自身は検察官に対し資金的に援助していたにすぎないと述べ脱税工作への関与についてこれを否定しており、他方被告人らも被告会社の経営や本件各犯行について実父から指示されたことはなく、自分達で決定したうえ実行した旨明確に供述しているばかりでなく、仮に実父から何らかの指示があったとしても、被告会社の経営の最高責任者の立場にあった被告人両名が本件各犯行を具体的に決定し、これを敢行したものであることは関係証拠上明らかであって、被告人両名の刑事責任に消長を来す重大なものでないことは多言を要しないところである。

以上の次第であって、被告人両名が本件の捜査及び当公判において本件各犯行をすべて認め、今後脱税の犯行を繰り返さない旨誓約していること、本件対象事業年度分の法人税については二事業年度で合計二億五六九一万円余を期限後申告及び修正申告によって完納し、加算税、延滞税についても被告人成桂名義の不動産を担保に差入れ約束手形による納付委託の手続をとり、対象事業年度の法人事業税、都民税合計一億六一七二万円余についてもその一部は既に支払済みであり、残額も四〇〇万円ずつ分割弁済の予定であること、被告会社においては新たに税理士をむかえ経理体制を改善する方向にあると認められること等被告人らに有利な情状を最大限に考慮しても、被告人敏雄について主文掲記の実刑を免れないものであり、また被告人成桂及び被告会社についても主文掲記の刑はやむを得ないものと考える(求刑被告会社に対し罰金八〇〇〇万円、被告人成桂に対し懲役二年、被告人敏雄に対し判示第一の罪につき懲役一年六月、第二の罪につき懲役六月)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田真一 裁判官 羽淵清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一)

修正損益計算書

東洋観光株式会社

自 昭和54年6月1日

至 昭和55年5月31日

〈省略〉

別紙(二)

修正損益計算書

東洋観光株式会社

自 昭和55年6月1日

至 昭和56年5月31日

〈省略〉

別紙(三)の1 税額計算書

〈省略〉

別紙(三)の2 税額計算書

〈省略〉

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